「孤宿の人」上・下

孤宿の人 上 孤宿の人 下
讃岐の小藩――丸海に、幕府の罪人・加賀殿が流されてくることに。藩の浮沈に関わる大事である加賀殿お預かりは、かの人の「鬼」「悪霊」という風評と相まって穏やかだった小藩に不可解な事件を招き寄せた。奇妙な縁で加賀殿と関わることになった幼い少女、ほう――彼女を見守り、導いてくれた優しい人々は、加賀殿を中心に湧き上がる暗い波に否応無く飲み込まれて行く――。
……あらすじを書くのは苦手だ(ため息)
面白かったです。ていうか、泣いた。ええもう、泣きましたとも。
宮部みゆきの時代物は、これまで「ぼんくら」にしても「日暮し」にしても、暖かな人情モノ的な話が多かった。それはそれで好きなのだけど、社会とか因習とか欲望とか、思想とか陰謀とか、個々人の思惑や望みや願いなど軽く飲み込んでしまう暗いうねりを書かせると、本領発揮という感じがする。
人は怖い。そして、哀しい。
鬼、悪霊も。神も仏も。それは共に人の身の内に在るのだ。
以下、ネタバレ(?)につき隠し文字。ドラッグしてお読みください。
渡部さまの行動がちょっと唐突なようにも思われたけど。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ――と、ニーチェの言葉にある。彼は深淵を覗いて、深淵に囚われてしまわれたのだろう。だからまあいい。
でも、宇佐に関してはちょっとやりすぎじゃないかなと思わないでもない。何もそこまで。加賀様のご遺体がどこにあるか、ほうに気にさせるための前フリなのかな、と思わないでもないですが。現実の厳しさといえばそうなのだけど、でも何もそこまで。
だって、涸滝のお屋敷に雷が落ちたときの方がずっと泣けたよ。ほうは無事だったのだし、加賀様は死ぬ事をお望みだったのだから、何も悲しいことなんてないはずなのに。加賀様の優しさと、それでも変わらない意思と、ほうの寂しさと、いろいろなことが切なかった。

それにしても、ヘタなホラーよりよっぽど怖かったデスよ。歴史モノなのに。