宮崎駿『風の谷のナウシカ』

風の谷のナウシカ 全7巻箱入りセット「トルメキア戦役バージョン」

風の谷のナウシカ 全7巻箱入りセット「トルメキア戦役バージョン」

風の谷のナウシカ [DVD]

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すんごい久しぶりに読み返した。そしてアニメも観てしまった。宮崎作品で一番好きなのは、やっぱりこれだ。
漫画は映画よりもずっと、深くて重い話。映画は映画で綺麗にまとまってるけど、全七巻の二巻分くらいまでだし。ドルクの代わりをペジテがやってるし。一国なければそれはずいぶん単純化するだろう。
つまりは決まった時間に収めるのが非常に巧いわけだけど、だからこそ漫画の方がずっと深くて広くて、いろいろ考えさせられる。
映画のナウシカは“清く正しく美しく”だけれども、漫画はもう全然一筋縄ではいかないデス。
ただ、声とか色合いとか動きとか、リアルに想像できるのはアニメのおかげだ。セットで読む(観る)べきだ。
なにしろ驚くべきことに、アニメで見たと思っていたシーンが漫画の方にしかなかったのだ。
おかしい……おかしすぎる。それこそ色合いから声から動きから、ハッキリ覚えてるのに。
クシャナ殿下が母君に挨拶に行くシーンと、トルメキア王家の紋章について語るシーン。……本当になかった?
DVDには入ってなくて、テレビ放送ではやるなんてこと……あるだろうか。変だなぁ。
それにしてもクシャナ殿下はかっこいい。クロトワもユパ様も僧正さまもチャルカ殿もかっこいい。皇兄も実はけっこう好きだ。ヴ王ですらかっこいいのは、ほとんど反則だと思う。
正否とか善悪とか、そういう以前の話なのだ。だから何度読んでも、なんというか……胸が痛い。
読者という形で俯瞰していると、いち登場人物には知りえない事も目にするわけで、もう本当に重い。痛い。
いろいろなことを知れば知るほど、その重さで身動き出来なくなっていくものだと思う。考えれば考えるほど、動くのは難しくなっていくものではないか。
ナウシカを凄いと思うのはそれでも動くからで、正否はあまり関係がない。
あれだけの事を知って、全部呑み込んで、それでも人の世界で生きていこうとするナウシカの強さが、凄い。
そもそもあのラスト、私はナウシカが正しいとは思わない。トルメキアの兄皇子達は幸せだと思うから、そういう可能性を摘んでしまうのは恐ろしい事だ。
――間違っているとも、言い切れないのだけれども。
ああそうか。今更気付いたけど、これって遠未来ファンタジーにおける“神殺し"の話なんだ――って、一言で表せる程単純な話ではもちろん、ないけど。
気付いてみれば、古代ファンタジーのその手の話を読んだときと、読後感がちょっと似ている。
“生命は生命の力で生きて”いて、“生きることは変わること”だから――“その朝”を越える事ができるよう祈ろうと思う。